幻の舟 阿刀田高

幻の舟 (角川文庫)

幻の舟 (角川文庫)

蒸し暑〜くなってきたのでちょっと背筋が寒くなるようなものを。
阿刀田高といえば短編集、というイメージがありますが。このぐらいの長さの小説でも、またいいものがあるのです。
ストーリーは歴史的にも有名な「安土城」を軸にミステリーのような、ホラーのような彼特有の奇妙な形式によって進んでいきます。ただ単に消えた安土城をめぐるサスペンスではないのです。歴史や様々な遺物を登場させながら、幻の屏風を求めるだけの話かと思いきや、その裏にはある一種の呪いのようなものが存在し、死者を呼び寄せる不思議な魔力のようなものが浮き上がってきます。
この作品はどこを読んでいても特に恐ろしい描写や今のホラーの風潮のような露骨な心霊現象があったりするわけではないのに肌寒い墓場にでもいるようなぞっとする恐ろしさを感じます。私はこういう怖さが大好きです(その日の夜はトイレ行けなかったけど)
中でも特に一番怖いのは文中で唯一「挿絵」があるシーンです。
決して怖い絵ではありません。何も知らずに見れば普通の特に意味を持たないような簡略な絵です。しかし、話を読み進めてからこの絵を見たとき、言葉に言い表せないような感情、冷たい風がすーっと背中を通り抜けていくのを感じます。このシーンを読んだ瞬間、どんな熱帯夜でも、暑がりの方でも必ず涼しくなるハズです。間違いありません。