熱球 重松清

熱球 (徳間文庫)

熱球 (徳間文庫)

「負ける権利」。人間誰だって負けたという経験があるはずだ、と作中でヨージが語っているように、私も負けた、という経験があります。分野は野球ではなく、違う部活だったけれども。もうやだやめたい逃げたいと思いながらもつらい練習に踏ん張って、それでも負けてしまった私の夏。絶望とか悲しみとかそんな言葉では表現できないような感情の深い穴に蹴り落とされたあの瞬間、私は誰に、どんな言葉をかけてもらいたかったのだろう。
作中には「シュウコウ」野球部員を応援することに情熱を注ぎ、試合で勝っても負けても戻ってきた彼らに「ようがんばった!」と声をかけてくれるザワ爺という人物が登場します。私もあの瞬間そんな人がいてくれたらどんなに嬉しかっただろうと思いました。この作中に出てくる人々の言葉や行動は、みんなあったかくて、読んでいるだけで救われるような気がします。
負けは負け、勝負はいつでも残酷です。だけど負けたことによってそれまでの努力までもが「負け」になってしまうのか?そんなことはないはずです。そうでなきゃやってられない。努力だとか汗だとか青春だとかが意味のない世界なんて何も魅力がない。ヨージが言うように、意味なんて考えない、意味がなくたっていい、ただがむしゃらにやることが楽しいと思える。そんな自分でありたいし、そういう人たちでいっぱいの世の中のほうが私は好きだなあと思いました。