神様のボート 江國香織

神様のボート

神様のボート

女性作家シリーズで
母親と娘の関係って、なにか神秘めいたものを感じられないでしょうか。父親と息子にもなく、母親と息子にもない、女同士であるゆえの一種の「同類」であるようなものを。
溺愛するとかそういうのではなく(むしろ母娘ってそういうのはめったにないような気がするのですが、どうでしょう)産んだものと生まれたものであるという絆と、もうひとつ、お互い「女同士」であるという不思議な連帯感。同じようでいて、決して同じではないけれど、奥底では女というものを共通して持っている、それがお互いハッキリとは意識しなくても自然とふたりの関係や会話に現れているような気がするのです。
この作品を読んで、そういう複雑な心情を思いました。離れたいけど、離れたくない。一緒だけど、一緒じゃない。母娘だけど、母娘じゃない。娘は年成長するにつれその事実に気づき始めるけれど、母親はその現実に気づこうとはせず、同一であることを求めます。娘の目覚めは誰しもが歩んできていて、そしてそのあたたかいものから出なくてはならないという少しの喪失感とさみしさを体験してきているのではないでしょうか。
あとがきで作者はこれを「狂気の物語」と述べています。恋愛のことを指していると思いますが、この母娘の間にも、わずかな狂気を感じました。それにしても、ラストの母親は痛すぎます。彼女には救いがあったのでしょうか。